過剰在庫とは?ピンチからチャンスに変えるためには

目次
過剰在庫とは?
過剰在庫は、想定していた売れ方に対して在庫が多すぎる状態です。予測のズレ、発注の都合、季節の切り替えや流行の変化が重なると起きやすく、そのままにするとお金が倉庫で眠る・保管費がかさむ・商品が古くなる・売るチャンスを逃すなどの問題につながります。
実務での見方
「売上計画や補充の基準に照らして、商品ごとの種類(サイズ・色など)の在庫が多すぎるか」を見ます。判断は、どれだけ速く売れているか(在庫回転率)や何日分の在庫を持っているか(在庫日数)といった“目安の数値”を使って、他の商品と比べて行います。
過剰在庫が増えると、主に次の3つの困りごとが起きます。
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お金が寝る
在庫は現金の代わりです。商品に姿を変えたお金はすぐ使えないため、
新しい仕入れや広告などに回せる資金が減ります(資金繰りが重くなる)。 -
コストがかさむ
保管料や人手が増え、長く置くほど破損・色あせのリスクも高まります。
最後は値下げや廃棄が必要になることもあります。 -
気づきが遅れる
在庫が多いと、欠品や需要の変化が見えにくくなります。
「売れる所に足りない」「売れない所に余っている」といったムダが起きやすくなります。
なお、滞留在庫は「動きが止まっている在庫」のこと。量が多すぎる過剰在庫とは見方も対応も違います。この違いは次の章で整理します。
本コラムでは、原因→リスク→見るべき数値→減らし方の順に、現場で使える形で説明します。とくにアパレルのサイズ・色の偏りや季節の切り替えへの対策も具体的に紹介します。
滞留在庫との違い
過剰在庫は「量が多い」、滞留在庫は「動きが遅い(止まっている)」。どちらも損につながりますが、見分け方と対応が違うので、まず切り分けが大事です。
- 過剰在庫
計画より在庫が多い。値付けの見直し・セット販売・在庫の移動などで巻き返せることが多い。
- 滞留在庫
売れるスピードがかなり遅い/止まっている。需要が弱く、在庫の価値を下げて帳簿に反映したり、処分を検討する場面も。
見分ける目安
・在庫日数が基準より長い(例:90日=黄色、120日=赤)
・在庫回転率が同じカテゴリーの平均より明らかに低い
・直近4週間で出荷ゼロ、または値下げしないと動かない
これらを商品ごとの種類(サイズ・色など)やカテゴリーで見ると、過剰と滞留がはっきりします。
在庫日数について解説
在庫日数とは:いまの売れ方だと何日で在庫を捌けるかの目安です。
- 売価ベース:在庫日数=在庫高(売価)÷1日の平均売上高(売価)
- 原価ベース:在庫日数=在庫高(原価)÷1日の平均売上原価
※ 分子と分母は同じ基準(売価か原価)にそろえ、日次平均は同じ期間(年なら365、月なら30など)で計算します。できれば平均在庫を使うとブレにくくなります。
対応の基本方針
- 過剰在庫
発注を減らす/セット販売やまとめ買い/価格の見直し/倉庫・店舗・ECの間で在庫を動かす。 - 滞留在庫
売り先を変える(アウトレット・法人向けなど)/写真や説明を見直す/それでも動かないなら処分と会計上の対応を検討。
両方を小さくするコツは、在庫回転率・在庫日数などを定期的に見える化して、商品単位で素早く決めること。次の章で、原因を分解して「手前で防ぐ」方法を説明します。
過剰在庫の発生する原因
過剰在庫は、いくつかの要因が重なって起きます。原因ごとに対策が違うので、まずは「どこで増えたのか」を切り分けましょう。
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需要予測のズレ
天候・販促の時期・流行・SNSなどの影響をうまく織り込めず、仕入れが多くなる。 -
発注や生産の都合
最小の発注量が大きい/納品までの時間が長い/まとめて作るため、適正より積み上がりやすい。仕入先の前倒し生産や引取りで増えることも。 -
商品の盛り上がりの見誤り
導入→成長→成熟→終わり、の流れを読むのが遅れ、勢いが落ちてからも多めに持ってしまう。アパレルや家電は変化が早い。 -
売り方・価格のちぐはぐ
ECと店舗の役割や値下げの決め方が合っていないと、売れる商品を逃し、人気のない商品が残る。 -
商品データや運用ミス
商品コードの重複や登録ミス、サイズ配分や色展開の設定ミス。棚替え・在庫移動が遅れて「在庫はあるが欲しい場所にない」状態に。
アパレルの例では、サイズ・色の偏り(SやXL、めずらしい色が残る)、
季節の切り替え(春夏→秋冬)、写真や説明不足で魅力が伝わらない、といった要因が代表的です。毎週、売れる速さを見ながら、配分の見直し・在庫移動・価格の前倒し調整をすると、過剰になる前に抑えられます。
はじめの一歩は、原因別に「見るべき数値」を決めること。
予測=精度、仕入れ・生産=納品までの時間と最小の発注量、販売=売れる速さ(在庫日数)、
商品データ=コードの重複や登録ミスの件数…といった具合に、担当ごとの数字で詰まりを特定します。
過剰在庫になりやすい商品
業界ごとに事情は違いますが、共通して過剰になりやすい特徴があります。あてはまる商品は、早めに数字で見張って先手を打つのが有効です。
- 季節性が強い商品
アパレル(春夏/秋冬)、クリスマス装飾、夏限定品など。販売期間が短く、時期を外すと値下げ頼みになりやすい。 - 流行の変化が速い商品
流行色・デザイン、キャラクターやイベント関連。鮮度が落ちると一気に動きが鈍くなる。 - 種類が多い商品
サイズ×色などバリエーションが多い商品。SやXL、めずらしい色に在庫が偏りやすい。 - 寿命が短い商品
家電・ガジェットなど新旧の切り替えが速いカテゴリ。新モデル発表で旧型が残りやすい。 - 最小の発注量が大きい商品
一度の発注でたくさん作る必要があるため、計画より積み上がりやすい。 - イベント向けの一時的な商品
記念品・限定ノベルティなど。需要を読み違えると、売り切る前に古くなる。
予防のコツ
- 季節・流行品は前半で勝負(価格・同梱・セット販売)を前倒しで準備。
- サイズ・色は過去の売れ方をもとに配分を調整。毎週、ECと店舗で在庫を動かしてバランスを取る。
- 寿命が短い商品は発売計画と在庫の引当を合わせ、新旧切替の減産や段階的な値下げを事前に決めておく。
- 発注量が大きい商品は、発注量の見直し相談や納品を分けてもらう工夫、安全在庫の上限設定で持ちすぎを防ぐ。
過剰になりやすい商品は、売れる速さ(在庫日数)と回転の速さ(在庫回転率)を商品単位で常にチェックし、黄色、赤の基準で自動的に目印を付けるのが近道です。
見える化には 在庫一元管理(WMS) が役立ち、
過去データにもとづく見直しと組み合わせると、配分や在庫移動、価格調整を早めに判断できます。
実践的な解決策
過剰在庫は「見える化 → 優先順位を決める → 実行 → 仕組みにする」の順で減らします。
まずはSKUごとに指標を出し、黄色/赤の基準で自動的に目印が付く状態を作ります。
大事なのは、分析で終わらせず“毎週動く”仕組みにすることです。
すぐ効く打ち手(7ステップ)
- 見える化
SKU別に 在庫回転率・在庫日数・粗利 を出す。例:在庫日数90日=黄色、120日=赤。 - 優先順位
「動きが遅い × 利益が少ない」ものを最優先で対応。A/B/Cの3段階で色分け。 - 発注を抑える
赤のSKUは補充を止める・減らす。「最小の発注単位の見直し」や「分割納品」などの相談も並行。 - 値付けの見直し
あらかじめ段階的な値下げルールを決めておく(例:2週間ごとに10%ずつ)。セット販売やまとめ買いで回転を上げる。 - 在庫の移動
毎週、売れている店舗やチャネルに在庫を寄せる(EC↔店舗、倉庫間)。 - 戻ってくる商品の活用
返品や売れ残りは再販売・再利用・リサイクルのルートを用意。アウトレットや法人向け販売も選択肢。 - 最終判断と記録
長く残った在庫は、値下げや処分も検討。値下げ履歴・保管日数などの記録を残しておく(会計処理で必要)。
WMSと予測で“前倒し”にする
- 在庫一元管理(WMS)
WMSで、直近の販売スピードと在庫日数をいつでも見られるようにする。 - かしこい補充
過去データを使って、サイズや色の配分を定期的に見直す。発売前に引当量を調整し、過剰を手前で防ぐ。 - 自動のToDo化
「赤=値下げ候補」「赤かつ利益が薄い=処分候補」のリストを自動で作り、毎週の会議で即決・即実行。
運用の回し方
- 前日集計→当日配布
黄色/赤のリストを担当へ配布。〈値下げ/セット販売/在庫移動/保留〉などの対応タグをメモ。 - 週次ふりかえり
実行件数・在庫日数の短縮・在庫金額の減少を確認。未実行は理由を特定(在庫移動待ち・撮影待ち等)。 - 月次アップデート
サイズ配分・安全在庫・補充基準を見直し、翌月の発注・販促計画に反映。
生産や仕入でも、「必要なときに必要な量だけ」に近づけます。
最小の発注量を小さくする相談や、納品を分けてもらう工夫、リードタイム(納品までの時間)を短くする工夫
などを進めると、在庫が溜まりにくくなります。
これらを続けて回すことで、在庫は“貯まる”から“回る”に変わります。
ダッシュボード・自動の目印・毎週の実行、この3点セットで運用を定着させましょう。
長期的な戦略
過剰在庫を根本から減らすには、短期の対処だけでなく
「しくみ」づくりと「習慣」づくりが必要です。
ポイントは、担当者の頑張りに依存せず、会社として同じやり方で回せる状態にすること。
1) しくみ:見える化とルールを会社の標準に
- 共通ダッシュボード
在庫日数・在庫回転率・在庫金額を全員が同じ画面で確認。 - 色分けルールの固定
黄色=注意、赤=要対応など、判断の基準を全社で統一。 - 写真・説明の基準
撮影と説明文のテンプレを整備し、魅力不足で“売れない”を防ぐ。 - サイズ・色の配分ルール
過去の売れ方を毎月反映して、配分係数を更新。 - 在庫移動の手順書
EC↔店舗、倉庫間の移動ルートと締切(週次)を決めて動かす。
2) 習慣:週次・月次で続ける場をつくる
- 週次ミーティング(30分)
赤い在庫の対応を即決。〈値下げ/セット販売/移動/保留〉のタグを付け、担当と期限を明確に。 - 月次見直し
安全在庫・補充基準・サイズ配分を更新。翌月の発注と販促に反映。 - 四半期の棚卸し
長期滞留の棚卸しと、写真・説明の改善、最終判断(値引き・処分)の確認。
3) 関係づくり:仕入先・物流・販売チャネルと連携
- 発注量の見直し相談
最小の発注量を小さくする、納品を分けてもらう、追加発注の締切を明確にする。 - 納品までの時間短縮
前倒し生産の依頼ではなく、小ロット・短納期で回せる形に見直す。 - 販売先の拡張
アウトレット・法人向け販売・ECモールなど“別の出口”を平時から確保。
4) ものづくりの無駄を減らす
- 「必要なときに必要な量だけ」へ
作りすぎをやめ、少量で早く回す。 - 工程の見直し
待ち時間や手戻りを減らし、在庫が滞るポイントを一つずつ潰す。
5) 環境にもやさしい運用
- 再販売・再利用のルート常設
返品や売れ残りの再販売、素材の再利用を標準フローに。 - 廃棄を最後の手段に
値下げ→別販路→寄贈→リサイクルの順で、無駄を最小化。
導入ロードマップ(例)
- 0〜1か月
ダッシュボードと黄色/赤の基準を決定、週次ミーティング開始。 - 2〜3か月
在庫移動手順・写真テンプレ・サイズ配分ルールを整備。 - 4〜6か月
仕入先と発注量・分納の相談、販路拡張、長期滞留の最終判断を実施。
長期の取り組みは「続けやすい形」にするのがコツ。
画面・基準・会議の流れをそろえれば、担当が替わっても同じ品質で回せます。
その結果、過剰在庫は徐々に溜まりにくくなり、売上と利益、そしてお客様満足の土台が安定します。
まとめ
過剰在庫は、ただ“余っている”だけの話ではありません。お金が倉庫で眠り、保管コストが増え、次の一手が遅れます。
だからこそ、在庫の「見える化」と「毎週の小さな意思決定」を積み重ねることが近道です。
まずは、商品ごとに売れる速さ(在庫日数)と回りの速さ(在庫回転率)を出し、
黄色/赤の目印で優先順位をはっきりさせましょう。黄色や赤になったものは、価格の見直し、セット販売、
在庫移動を先に試し、それでも動かないものは売り先を変えるか、最終判断をします。
仕入や生産でも、「必要なときに必要な量だけ」に近づける工夫が効きます。
最小の発注量を見直す、納品を分けてもらう、発売前に配分を調整する――こうした前倒しの工夫で、
そもそも在庫を持ちすぎない体質に変えていけます。
大切なのは、担当者の頑張りに頼らず、会社の“しくみ”として続けること。
同じ画面、同じ基準、同じ会議の流れで回せば、担当が変わっても品質はぶれません。
その結果、過剰在庫は溜まりにくくなり、売上と利益、そしてお客様満足の土台が安定します。
今日からできる一歩はシンプルです。①指標を出す、②黄色/赤に目印を付ける、③毎週30分で対応を決める。
この小さなサイクルを続ければ、在庫は“貯まる”から“回る”へ。次の1か月で手応えが出てきます。