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TOPコラム過剰在庫とは?ピンチからチャンスに変えるためには

公開日: 2024/04/03
更新日: 2025/10/23

過剰在庫とは?ピンチからチャンスに変えるためには

過剰在庫のイメージ(在庫が資金や保管コストを圧迫する状態)

過剰在庫とは?

過剰在庫は、想定していた売れ方に対して在庫が多すぎる状態です。予測のズレ、発注の都合、季節の切り替えや流行の変化が重なると起きやすく、そのままにするとお金が倉庫で眠る保管費がかさむ商品が古くなる売るチャンスを逃すなどの問題につながります。

実務での見方
「売上計画や補充の基準に照らして、商品ごとの種類(サイズ・色など)の在庫が多すぎるか」を見ます。判断は、どれだけ速く売れているか(在庫回転率)何日分の在庫を持っているか(在庫日数)といった“目安の数値”を使って、他の商品と比べて行います。

過剰在庫が増えると、主に次の3つの困りごとが起きます。

  • お金が寝る
    在庫は現金の代わりです。商品に姿を変えたお金はすぐ使えないため、
    新しい仕入れや広告などに回せる資金が減ります(資金繰りが重くなる)。
  • コストがかさむ
    保管料や人手が増え、長く置くほど破損・色あせのリスクも高まります。
    最後は値下げや廃棄が必要になることもあります。
  • 気づきが遅れる
    在庫が多いと、欠品や需要の変化が見えにくくなります。
    「売れる所に足りない」「売れない所に余っている」といったムダが起きやすくなります。

なお、滞留在庫は「動きが止まっている在庫」のこと。量が多すぎる過剰在庫とは見方も対応も違います。この違いは次の章で整理します。

本コラムでは、原因→リスク→見るべき数値→減らし方の順に、現場で使える形で説明します。とくにアパレルのサイズ・色の偏り季節の切り替えへの対策も具体的に紹介します。

滞留在庫との違い

過剰在庫は「量が多い」、滞留在庫は「動きが遅い(止まっている)」。どちらも損につながりますが、見分け方と対応が違うので、まず切り分けが大事です。

  • 過剰在庫

    計画より在庫が多い。値付けの見直し・セット販売・在庫の移動などで巻き返せることが多い。

  • 滞留在庫

    売れるスピードがかなり遅い/止まっている。需要が弱く、在庫の価値を下げて帳簿に反映したり、処分を検討する場面も。

見分ける目安
・在庫日数が基準より長い(例:90日=黄色、120日=赤)
・在庫回転率が同じカテゴリーの平均より明らかに低い
・直近4週間で出荷ゼロ、または値下げしないと動かない
これらを商品ごとの種類(サイズ・色など)カテゴリーで見ると、過剰と滞留がはっきりします。

在庫日数について解説

在庫日数とは:いまの売れ方だと何日で在庫を捌けるかの目安です。

  • 売価ベース:在庫日数=在庫高(売価)÷1日の平均売上高(売価)
  • 原価ベース:在庫日数=在庫高(原価)÷1日の平均売上原価

※ 分子と分母は同じ基準(売価か原価)にそろえ、日次平均は同じ期間(年なら365、月なら30など)で計算します。できれば平均在庫を使うとブレにくくなります。

  在庫回転率(商品回転率)とは?
  在庫回転率についての解説はこちらをご覧ください。

対応の基本方針

  • 過剰在庫
    発注を減らす/セット販売やまとめ買い/価格の見直し/倉庫・店舗・ECの間で在庫を動かす。
  • 滞留在庫
    売り先を変える(アウトレット・法人向けなど)/写真や説明を見直す/それでも動かないなら処分と会計上の対応を検討。

両方を小さくするコツは、在庫回転率・在庫日数などを定期的に見える化して、商品単位で素早く決めること。次の章で、原因を分解して「手前で防ぐ」方法を説明します。

過剰在庫の発生する原因

過剰在庫は、いくつかの要因が重なって起きます。原因ごとに対策が違うので、まずは「どこで増えたのか」を切り分けましょう。

  • 需要予測のズレ
    天候・販促の時期・流行・SNSなどの影響をうまく織り込めず、仕入れが多くなる。
  • 発注や生産の都合
    最小の発注量が大きい/納品までの時間が長い/まとめて作るため、適正より積み上がりやすい。仕入先の前倒し生産や引取りで増えることも。
  • 商品の盛り上がりの見誤り
    導入→成長→成熟→終わり、の流れを読むのが遅れ、勢いが落ちてからも多めに持ってしまう。アパレルや家電は変化が早い。
  • 売り方・価格のちぐはぐ
    ECと店舗の役割や値下げの決め方が合っていないと、売れる商品を逃し、人気のない商品が残る。
  • 商品データや運用ミス
    商品コードの重複や登録ミス、サイズ配分や色展開の設定ミス。棚替え・在庫移動が遅れて「在庫はあるが欲しい場所にない」状態に。

アパレルの例では、サイズ・色の偏り(SやXL、めずらしい色が残る)
季節の切り替え(春夏→秋冬)、写真や説明不足で魅力が伝わらない、といった要因が代表的です。毎週、売れる速さを見ながら、配分の見直し・在庫移動・価格の前倒し調整をすると、過剰になる前に抑えられます。

はじめの一歩は、原因別に「見るべき数値」を決めること。
予測=精度、仕入れ・生産=納品までの時間と最小の発注量、販売=売れる速さ(在庫日数)、
商品データ=コードの重複や登録ミスの件数…といった具合に、担当ごとの数字で詰まりを特定します。

過剰在庫になりやすい商品

業界ごとに事情は違いますが、共通して過剰になりやすい特徴があります。あてはまる商品は、早めに数字で見張って先手を打つのが有効です。

  • 季節性が強い商品
    アパレル(春夏/秋冬)、クリスマス装飾、夏限定品など。販売期間が短く、時期を外すと値下げ頼みになりやすい。
  • 流行の変化が速い商品
    流行色・デザイン、キャラクターやイベント関連。鮮度が落ちると一気に動きが鈍くなる。
  • 種類が多い商品
    サイズ×色などバリエーションが多い商品。SやXL、めずらしい色に在庫が偏りやすい。
  • 寿命が短い商品
    家電・ガジェットなど新旧の切り替えが速いカテゴリ。新モデル発表で旧型が残りやすい。
  • 最小の発注量が大きい商品
    一度の発注でたくさん作る必要があるため、計画より積み上がりやすい。
  • イベント向けの一時的な商品
    記念品・限定ノベルティなど。需要を読み違えると、売り切る前に古くなる。

予防のコツ

  • 季節・流行品は前半で勝負(価格・同梱・セット販売)を前倒しで準備。
  • サイズ・色は過去の売れ方をもとに配分を調整。毎週、ECと店舗で在庫を動かしてバランスを取る。
  • 寿命が短い商品は発売計画と在庫の引当を合わせ、新旧切替の減産や段階的な値下げを事前に決めておく。
  • 発注量が大きい商品は、発注量の見直し相談納品を分けてもらう工夫、安全在庫の上限設定で持ちすぎを防ぐ。

過剰になりやすい商品は、売れる速さ(在庫日数)と回転の速さ(在庫回転率)を商品単位で常にチェックし、黄色、赤の基準で自動的に目印を付けるのが近道です。
見える化には 在庫一元管理(WMS) が役立ち、
過去データにもとづく見直しと組み合わせると、配分や在庫移動、価格調整を早めに判断できます。

実践的な解決策

過剰在庫は「見える化 → 優先順位を決める → 実行 → 仕組みにする」の順で減らします。
まずはSKUごとに指標を出し、黄色/赤の基準で自動的に目印が付く状態を作ります。
大事なのは、分析で終わらせず“毎週動く”仕組みにすることです。

すぐ効く打ち手(7ステップ)

  1. 見える化
    SKU別に 在庫回転率・在庫日数・粗利 を出す。例:在庫日数90日=黄色、120日=赤。
  2. 優先順位
    「動きが遅い × 利益が少ない」ものを最優先で対応。A/B/Cの3段階で色分け。
  3. 発注を抑える
    赤のSKUは補充を止める・減らす。「最小の発注単位の見直し」や「分割納品」などの相談も並行。
  4. 値付けの見直し
    あらかじめ段階的な値下げルールを決めておく(例:2週間ごとに10%ずつ)。セット販売やまとめ買いで回転を上げる。
  5. 在庫の移動
    毎週、売れている店舗やチャネルに在庫を寄せる(EC↔店舗、倉庫間)。
  6. 戻ってくる商品の活用
    返品や売れ残りは再販売・再利用・リサイクルのルートを用意。アウトレットや法人向け販売も選択肢。
  7. 最終判断と記録
    長く残った在庫は、値下げや処分も検討。値下げ履歴・保管日数などの記録を残しておく(会計処理で必要)。

WMSと予測で“前倒し”にする

  • 在庫一元管理(WMS)
    WMSで、直近の販売スピードと在庫日数をいつでも見られるようにする。
  • かしこい補充
    過去データを使って、サイズや色の配分を定期的に見直す。発売前に引当量を調整し、過剰を手前で防ぐ。
  • 自動のToDo化
    「赤=値下げ候補」「赤かつ利益が薄い=処分候補」のリストを自動で作り、毎週の会議で即決・即実行。

運用の回し方

  • 前日集計→当日配布
    黄色/赤のリストを担当へ配布。〈値下げ/セット販売/在庫移動/保留〉などの対応タグをメモ。
  • 週次ふりかえり
    実行件数・在庫日数の短縮・在庫金額の減少を確認。未実行は理由を特定(在庫移動待ち・撮影待ち等)。
  • 月次アップデート
    サイズ配分・安全在庫・補充基準を見直し、翌月の発注・販促計画に反映。

生産や仕入でも、「必要なときに必要な量だけ」に近づけます。
最小の発注量を小さくする相談や、納品を分けてもらう工夫、リードタイム(納品までの時間)を短くする工夫
などを進めると、在庫が溜まりにくくなります。

これらを続けて回すことで、在庫は“貯まる”から“回る”に変わります。
ダッシュボード・自動の目印・毎週の実行、この3点セットで運用を定着させましょう。

長期的な戦略

過剰在庫を根本から減らすには、短期の対処だけでなく
「しくみ」づくり「習慣」づくりが必要です。
ポイントは、担当者の頑張りに依存せず、会社として同じやり方で回せる状態にすること。

1) しくみ:見える化とルールを会社の標準に

  • 共通ダッシュボード
    在庫日数・在庫回転率・在庫金額を全員が同じ画面で確認。
  • 色分けルールの固定
    黄色=注意、赤=要対応など、判断の基準を全社で統一。
  • 写真・説明の基準
    撮影と説明文のテンプレを整備し、魅力不足で“売れない”を防ぐ。
  • サイズ・色の配分ルール
    過去の売れ方を毎月反映して、配分係数を更新。
  • 在庫移動の手順書
    EC↔店舗、倉庫間の移動ルートと締切(週次)を決めて動かす。

2) 習慣:週次・月次で続ける場をつくる

  • 週次ミーティング(30分)
    赤い在庫の対応を即決。〈値下げ/セット販売/移動/保留〉のタグを付け、担当と期限を明確に。
  • 月次見直し
    安全在庫・補充基準・サイズ配分を更新。翌月の発注と販促に反映。
  • 四半期の棚卸し
    長期滞留の棚卸しと、写真・説明の改善、最終判断(値引き・処分)の確認。

3) 関係づくり:仕入先・物流・販売チャネルと連携

  • 発注量の見直し相談
    最小の発注量を小さくする、納品を分けてもらう、追加発注の締切を明確にする。
  • 納品までの時間短縮
    前倒し生産の依頼ではなく、小ロット・短納期で回せる形に見直す。
  • 販売先の拡張
    アウトレット・法人向け販売・ECモールなど“別の出口”を平時から確保。

4) ものづくりの無駄を減らす

  • 「必要なときに必要な量だけ」へ
    作りすぎをやめ、少量で早く回す。
  • 工程の見直し
    待ち時間や手戻りを減らし、在庫が滞るポイントを一つずつ潰す。

5) 環境にもやさしい運用

  • 再販売・再利用のルート常設
    返品や売れ残りの再販売、素材の再利用を標準フローに。
  • 廃棄を最後の手段に
    値下げ→別販路→寄贈→リサイクルの順で、無駄を最小化。

導入ロードマップ(例)

  1. 0〜1か月
    ダッシュボードと黄色/赤の基準を決定、週次ミーティング開始。
  2. 2〜3か月
    在庫移動手順・写真テンプレ・サイズ配分ルールを整備。
  3. 4〜6か月
    仕入先と発注量・分納の相談、販路拡張、長期滞留の最終判断を実施。

長期の取り組みは「続けやすい形」にするのがコツ。
画面・基準・会議の流れをそろえれば、担当が替わっても同じ品質で回せます。
その結果、過剰在庫は徐々に溜まりにくくなり、売上と利益、そしてお客様満足の土台が安定します。

まとめ

過剰在庫は、ただ“余っている”だけの話ではありません。お金が倉庫で眠り、保管コストが増え、次の一手が遅れます。
だからこそ、在庫の「見える化」と「毎週の小さな意思決定」を積み重ねることが近道です。

まずは、商品ごとに売れる速さ(在庫日数)回りの速さ(在庫回転率)を出し、
黄色/赤の目印で優先順位をはっきりさせましょう。黄色や赤になったものは、価格の見直し、セット販売、
在庫移動を先に試し、それでも動かないものは売り先を変えるか、最終判断をします。

仕入や生産でも、「必要なときに必要な量だけ」に近づける工夫が効きます。
最小の発注量を見直す、納品を分けてもらう、発売前に配分を調整する――こうした前倒しの工夫で、
そもそも在庫を持ちすぎない体質に変えていけます。

大切なのは、担当者の頑張りに頼らず、会社の“しくみ”として続けること。
同じ画面、同じ基準、同じ会議の流れで回せば、担当が変わっても品質はぶれません。
その結果、過剰在庫は溜まりにくくなり、売上と利益、そしてお客様満足の土台が安定します。

今日からできる一歩はシンプルです。①指標を出す、②黄色/赤に目印を付ける、③毎週30分で対応を決める。
この小さなサイクルを続ければ、在庫は“貯まる”から“回る”へ。次の1か月で手応えが出てきます。

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